筋電義手
障害者の手で 国産・量産化へ、就労モデルづくり

2017年1月10日

毎日新聞 2017年1月10日発行 大阪夕刊より転載

 本人の意思で指を動かせる筋電義手の国産製品が完成したことを受け、量産化に障害者が従事する計画が進んでいる。組み立てなどを担って就労の場とし、障害者が障害者を支える事業に関わる仕組みだ。作業の手助けとなるマニュアル作りが進められており、来年度の量産開始を目指す。【桜井由紀治】


竹中ナミさん(右)と林和也さん(左)のアドバイスを受けながら国産筋電義手(左手前)の組み立て実験をする宮崎智弥さん=神戸市東灘区で、幾島健太郎撮影

 開発責任者で兵庫県立リハビリテーション中央病院(神戸市西区)の陳隆明医師(56)と、障害者の自立を目指す社会福祉法人「プロップ・ステーション」(同市東灘区)の竹中ナミ理事長(68)が、障害者の就労モデルを創出しようと協力して進めている。

 国産筋電義手は昨年11月に完成。手首から指先部分に当たる「手先具」部分の原材料を、従来製品の金属からプラスチックにした。軽量化とコストダウンを実現、レーザー加工機で部品を切り出すことができて量産しやすくなった。障害者は、この手先具の部品切り出しや組み立てに従事して報酬を得る計画だ。

 筋電義手は、約50種類の細かい部品や関節部分に糸を通してリールで巻き上げ、指の屈伸を自在にさせる複雑な構造をもつ。緻密な作業が求められるが、集中力があり作業が丁寧な面がある障害者は習熟すれば十分担えるとみている。

 現在、障害者の参加を得てプロップ・ステーションでマニュアル作りが進む。先月には法人施設で組み立て実験があり、知的障害のある宮崎智弥さん(29)=同市灘区=が、関節部分の部品をネジでつなぎ合わせる作業をした。部品の判別に苦労した宮崎さんは、マニュアルを担当する法人就労支援員の林和也さん(41)に、部品を色で判別できるよう提案した。宮崎さんは「難しいけど、やりがいがある。頑張って速く作業ができるようにしたい」と話した。

 こうした実験を重ねて意見を反映させたマニュアルは、障害者に分かりやすく図を多用する一方、説明文を平易にする方針だ。今年度中に完成させ、来年度の量産化に向けて従事する障害者を募る。

 長女マキさん(43)が重症心身障害者で、障害者を「チャレンジド」(挑戦する人)と呼ぶ竹中さんは、「どんな障害があろうが、人には人を支える力がある。『この人には無理』と最初から就労をあきらめさせられていたチャレンジドの眠れる力を生かしたい」と話す。

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